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よこはま醤油 [醸造学]

大学仲間宅で久々に寿司会をした。

家から持参した醤油が、話の流れで今回の会の議題となった。

ちなみに私が日本に戻るたびに持ち帰ってくる醤油が「よこはま醤油」。

CIMG5168.jpg

蔵は市内にあり、直接注文しに行くため、いろいろ見せてくれたり話もしてくれる。
私はこのまろやか過ぎる“よこはま醤油”が大好きだ。
これの他にキッコーマンの濃口醤油も味比べのために持参した。

醤油は言わずと知れた世界に誇れる日本の発酵調味料の代表である。

現在、フランス人のワインの年間消費量は1人あたり約50Lと言われる。
一方で日本における醤油の年間消費量は1人あたり10L弱。
これは仏人がワインボトル7本飲んでいる間に日本人は1Lペットボトル醤油を
1本消費してしまう計算になる。
醤油はもちろん単体で飲む事はないので、そう考えるとこの数字はすごい!

同じ醸造を専門にする仲間内で異国の発酵食品の醸造行程の話も結構盛り上がる。
こっちに来て日本酒と同様に醤油について聞かれる事が結構ある。
おかげで日本にいる時よりも今のほうが詳しくなった。
近年の寿司ブームでフランスのどこのデパートにも醤油は置いてあり
仏人にとっても結構身近な調味料の一つである。

醤油を造るにあたって原料としてタンパク質(大豆)とでんぷん質(小麦)が必要である。
醤油はフランス語で「sauce de soja(ソースドソージャ)」英語で「soy sauce」。
だから100%大豆から作られていると思われがちだが実は違うのだ。

・タンパク質(大豆もしくは加工品)
昔は醤油の原料として大豆のみが用いられていたが
大豆に含まれる油は醤油製造に全く必要ないので、以前から丸大豆の代わりに脱脂大豆が使用されていた。市場の8割がこの脱脂大豆を原料としている。

・でんぷん質(小麦)
醤油の製造にはでんぷんが重要である。うまみに関連するグルタミン酸も豊富。

あとは食塩、種麹、水など。

《醤油の製造工程》

1.原料処理
大豆を蒸煮する。タンパク質を加熱変性させ、麹のタンパク質分解酵素の作用を受けやすくするため。この蒸煮が不十分だと後々、タンパク質混濁が起こったり、逆にやりすぎてしまうと酵素反応が受け難くなる。
小麦は熱処理後、炒り(しゃごう)、割砕する。

2.整麹
大豆と麦の熱を下げてから種麹を加える。整麹時間は3、4日。

3.仕込み(主役:酵素→乳酸菌→酵母)
発酵タンクに食塩水を入れ、できた麹を投入(これが諸味)。
食塩水を入れたところで麹菌の繁殖は終わる。
そして、麹菌によって作り出された酵素によってタンパク質とでんぷん質を分解する。
タンパク質はうまみ成分のアミノ酸に。
でんぷんは糖分に変わる。これがワインの工程ではない“糖化”という大事な作業。
この糖化が行われないと発酵しない。
そして1、2ヶ月後にはれて発酵が始まる!

まず行われるのが乳酸発酵。
しょうゆもワインと同様に乳酸菌を用いる(菌種は異なる)。
しかし、その用途は少し異なる。

ワインの場合は、必要に応じてこの作業を行うが
マロラクティック発酵(fermentation malolactique=FML)と言って
乳酸菌によって酸度の高いブドウ本来に含まれるリンゴ酸
まろやかな酸である乳酸に換えるために用いる。

一方、醤油の場合は乳酸発酵によって糖分から乳酸を作る。
これにより醤油の酸味を形成すると共に、抗菌作用もある。
最終的に諸味内は酸性に傾き(pH5.0以下)、ほとんどの生物が死滅する。
最後には乳酸菌自体も死滅する。

そして次に活躍するのがワインでもおなじみの耐酸性のある酵母である。
(醤油の場合は耐塩性でもある菌を使用しなくてはならない)。

仕込み段階で麹が表面に浮くので、棒などで押し込み(ワインでいうバトナージュ)
麹の中身まで食塩水を十分に吸い込むようにして麹中の有害細菌の増殖を抑える。
通気撹拌(ルモンタージュ?ちょっと違うか)を行い発酵を促す。

これらの期間がワインに比べとても長い。
4月に諸味を仕込み、その後、自然の温度経過をたどり10月頃に醸造を終わる。

4.圧搾
諸味と液体と固形部分に分ける圧搾行程。
諸味をたいらに積み重ね、もろみの重さで圧搾する。
その後に強圧にかけて絞る。これを濾過したのが生揚(きあげ)醤油。
得られた液をタンクに入れ、数日間静置して、オリ引きを行う。
必要に応じて、セライトなどの濾過助剤を使う(ワインにも使われる)。

5.火入れ
火入れせずに濾過して酵母を無菌化した生醤油も市場にある。
火入れの目的は、微生物の殺菌、酵素(うまみ成分を分解する酵素)の失活
香り(火香)の向上など。80℃で10〜30分加熱して60℃前後に急冷して静置。
ちなみにワイン醸造にも“パスツリゼーション”といって同じように
加熱処理する事も稀にある。これについてはまた今度。


6.おり下げと濾過
火入れにより凝固した成分を沈殿させる。
オリ引きをして最後に濾過をする。
もちろんワインと同様、うまみ成分や香りの低下を懸念して濾過をしない蔵もある。

7.瓶詰め

製造行程はだいたいこんな感じ。
醤油とワイン、原料は全然違うものの、ワイン行程と重なる部分も多いので、話していて楽しい。

追記:
醤油の話題と同様に日本酒についてもかなり聞かれるので
以前、日記を作成して事がある。
しかしブログにアップする直前にすべて消えてしまった…。
日本酒についてはまた気が向いたら書こうと思う。

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Ryosuke

醤油のことが少しわかった気がします。私も、こちらにきてから、日本酒や醤油のことをよく聞かれるのですが、まったく説明できなくて困ることが多くて・・・でもワインと製造工程が似ているのは驚きでした。またいつか日本酒もお願いします~
by Ryosuke (2012-04-01 06:41) 

taskbon

>Ryosukeさん
ちょっと分かり難いかなと思ったのですが、ご参考になれば良かったです。“日本酒”版は近々、アップさせて頂きます!
by taskbon (2012-04-01 07:17) 

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